「BOP」という言葉をご存知でしょうか。
「Base of the Pyramid」の略で、世界の所得別人口構成の中で、最も収入が低い所得層を指す言葉。
約40億人がここに該当すると言われています。
このBOPに注目し、「モバイルテクノロジーを使って世界の貧困問題を解決できるビジネスをつくる」という志でシンガポールにて会社を設立、そしてフィリピンで日々猛進しているのが、深田さんと尾崎さん率いるYOYO HOLDINGS PTE. LTD.。
手前のエントリで、クロスコープさんでハロウィン仕様の装飾にキャッキャウフフしたりYOYOさんのオフィスでGood and Newに参加してキャッキャウフフしていましたが、それだけではありません!!
CEOの深田さん、CTOの尾崎さんにいろいろ話を伺ってきましたのでご紹介します。
※この写真は7月末にお邪魔した時のものです。
YOYOとCandyのおさらい
YOYO HOLDINGS PTE. LTD.は、DeNA新卒同期でもある深田さんと尾崎さんが2012年にシンガポールで設立した会社。10月10日で創業丸1周年を迎え、現在2年目に突入しています。
そのYOYOがフィリピンで今年リリースしたのが、Candyというサービス。
http://can-dy.ph
Candyは、フィリピンの中間所得者層以下を対象としたリワードプラットフォーム。
フィリピンでは国民の大半がプリペイド携帯を利用していて、消費者はSMSやWEBを介したアンケートなどのマイクロタスクを完了すればプリペイド携帯の利用料金(ロード)を得ることができる。β版登録者数は3週間で3万人を超え、そのほとんどが口コミ経由。現在の累計会員数は4.7万人。
2人の出会いは「DeNAの新卒同期」
深田さんから見た尾崎さんの印象は「一番おもしろいヤツ」。内定者同士でやりとりしたプロフィールシートがとても印象深かった、と。
一方、尾崎さんから見た深田さんは「優秀そうなヤツ」。同期にTech系でない内容のブログを書いている人があまりいなくて、「おー」と思っていたそう。
とはいえ、仕事でガッツリ絡むことはなかったとか。
そんなある日、同僚の披露宴の余興を決めるミーティングで顔を合わせることに。
よりによって遅刻する尾崎さん。
「遅れて来たんだから案だせや」と誰かにせっつかれて口走った尾崎さんのネタがあまりにすごく、深田さんは「コイツは面白いだけじゃなくて天才だ」と思うようになったそうです。
ここから先は、お二人の言葉で。
学生の頃から「BOP」に注目していた深田さん、深田さんのフラグを察知した尾崎さん
深田:
学生の頃から、「自分で事業をやっている人の言葉って、魂がこもっているなぁ」と思っていました。起業家は自分が見つけた社会的な課題だったり問題だったりを自分のアプローチで解決する、自分の言葉で自分の仕事を語る、そこにすごみ、厚みがある。そういうところで働きたいし、なろうと思っていたんですよね。
自分のキャリアを悩む中で、起業家・社会起業家とコミュニティを作ったり、NPOの学生部を作ったり、社会的な課題をビジネスで解決するアプローチをいろいろ調べていく中で、「ネクスト・マーケット」という本に出会いました。直訳すると、「次の市場」。僕たちの知らない・気づいていないブルーオーシャン、40億人が対象の世界がある、と。
当時は、「『貧しい』は時代の逆行」でした。何しろシニア向けのビジネスが話題だった時期なので。シルバー層向けSNSもありましたし、それが正しいと思っていたんです。
その頃にグラミン銀行(※1)のマイクロファイナンス(※2)の事例を知りました。最初は「銀行を作ってノーベル平和賞ってなに?」という印象だったのですが、調べていくうちに「金ない、資産ない、学もない、その中で、無担保でお金を貸してくれる」「利息は日本以上の水準、むしろ高利貸しじゃないか?」「しかし返済率は98%」、「そして事実として多くの貧困層たちの収入が上がっている」、「なんだこれは!」と。
「ブルー・オーシャン戦略」という本にも多いに影響を受けました。
当時、日本でBOPをやっている人は全然いませんでした。途上国向けのものといえば、ボランティアベース、NGOやNPO、政府関係のプログラムなどばかりで。
僕は、大きな価値を提供したり大きな問題を解決するには、しっかり収益を作れる形で、事業としてやる必要があると、それもテクノロジーでイケるんじゃないかと思うようになりました。ケニアのマサイ族が、インフラもロクに整備されていなさそうな地域に住んでいるのに、携帯電話を持っていたんですよ。テレビない、冷蔵庫もない、でも「携帯を持っている」、それも「当たり前のように」。日本は、白物家電、固定電話、パソコン、携帯電話、スマートフォンという歴史を辿ってきましたが、世の中のすべての人・国と地域がこのプロセスを踏む訳じゃないんだと気づきました。
この思いはずっと抱えていて、それを実現したくてDeNA社内の新規事業コンテストに何度も応募したんです。なぜか毎回書類審査で落ちたんですが(笑
尾崎:
DeNAは同期は44人いたんですが、入社して何年かたつと、どの会社でも、誰ともなく「同期の◯◯、そろそろ転職・独立考えているらしい」というフラグが立つじゃないですか。なんとなく、深田の「辞めるフラグ」を察したんですよね。なので、「最近どうよ」と食事に誘ったんです。
いざサシで話をしたときに、深田がずっと昔から興味を持っていたBOPのことや「グラミン」「ユヌス(※3)」というキーワードの話になりました。名前を知っている程度であまり知識は持っていなかったのですが、話を聞くうちにどんどん興味が湧いてきて、いつのまにか意気投合していました(笑
実は、マサイ族の話のような「世界中の途上国でSMSが使われている」ということにもともと興味はあったんです。
いつのまにか、仕事が終わった後や土日に、2人でビジネスプランを考えるようになりました。「やりたいよね」ではなくて、「やる前提」で「何をやるか」、そして「タイミングはいつか」。
※1 グラミン銀行
〜小口融資を専門にするバングラデシュの民間銀行。グラミンは「村」の意味。グラミン銀行は貧困層を救うという社会貢献が前提にあるが、営利目的を放棄した「慈善事業団体」ではなく、一般の銀行と同じように、利益を出すべく運営されている。詳しくはこちらのリンクがわかりやすかったのでどうぞ。
※2 マイクロファイナンス
〜貧困層への小口融資。グラミン銀行では、無担保・金利は20%(平均)だが、教育ローンは無利息で行うなど、貧困層に配慮した制度も備えている。
※3 ユヌス
〜グラミン銀行の創設者がムハマド・ユヌス博士。グラミン銀行での功績が讃えられ、2006年にノーベル平和賞を受賞している。詳しくはこちらのリンクをどうぞ(ちょっと古いですが)。
「タイミングはいつか?」 − 深田さんはまだ見ぬピラミッドのボトムを見にフィリピンへ、尾崎さんは起業準備で日本に残った。
深田:
尾崎が言ったように「やる前提」で「何をやるか」、いろいろ調べはしましたが、そもそも事例のある国に行ったことがなかったんです。
ですから、途上国と言われている国で、例えばインドやパキスタン、バングラデシュなど、SMSを使っているユーザーが、どんな暮らしをしているのか、何もわからないんですよね。
日本でギャーギャー騒いでもわからない、じゃぁ辞めるしかないか、どうしようか、と。
そんな時に、ラングリッチ(※4)の「インターン募集」の記事をたまたま見つけました。
期間は半年、3食付きで英語のレッスンを1日4時間受けることができるから英語も勉強できる。それだけでなく、フィリピン人の先生とコミュニケーションが取れるので、現地で暮らしている「普通の人たち」のことをわかることができるんじゃないか、市場調査も兼ねて行くしかない。
そう思って、DeNAを退職してフィリピンに飛び立ちました。
尾崎:
元々は、会社を日本で作るつもりでいたので、その準備も兼ねて僕は日本に残りました。フィリピンには現地視察という形で、深田のインターン留学中に2回訪問しています。
※4 ラングリッチ
日本向けのオンライン英会話と、フィリピンはセブ島でマンツーマン英語留学を提供している。
http://langrich-college.com/
ラングリッチに資本・経営参画しているのがポールさんこと加藤順彦さん。ここへの深田さんのインターン留学が、その後の2人の運命を変えることになる。
加藤さんとの出会い、そしてシンガポールでの創業
※写真は深田さんのブログより
深田:
DeNA退職後、ラングリッチでインターンとして2012年の7月から12月まで留学していました。
ある日、真っ赤なアロハシャツを着た声のでかいオジサンが来たんです。なんとなく「厄介な生徒が来たな〜」と思ったらなんと、ラングリッチの投資家の人だったんですよ。
「投資家の人か、せっかくだし話だけでも聞いてもらおうかな」と思い、アドバイスくださいとポールさんにアプローチしたんですが、結果コテンパンにされました。
めっちゃくちゃムカつきました(笑
その後、ラングリッチ2周年のパーティーで上映したムービーをポールさんが見たいというので、SDカードでデータを渡したんですよ。そしたらなんとポールさん、SDカード持ってシンガポールに帰っちゃったんです。
もう(SDカード)戻って来ないよな〜と思っていたんですけど、ある日ポールさんからFacebookでFriend申請が来て、「9月にセブに戻るから、その時に返す。そのタイミングで、また続きを話そう」なんて言われて。
当時は、ポールさんは僕たちに興味ないと思っていたんですけど、「これはいいチャンス。逆にギャフンと言わせたい」と思いましたね。
ポールさんへのプレゼンに備えていろいろ考えたり散々悩んでいるうちに気づいたんですけど、ポールさんへの最初のプレゼンは、「日本で考えていたアイディア」だったんですよ。セブで過ごすうちに、フィリピン人のプリペイド携帯の使い方、市場の状況などがわかってきたので、それをベースにビジネスプランを練っていきました。
尾崎:
その後、8月後半にセブに行って2人でディスカッションを繰り返した結果、Candyの元となるアイディアが生まれました。それをどんどんブラッシュアップして、仮説検証を何度も重ねました。
深田:
そして待ちに待った9月。ポールさんに、Candyのことや新興国へのモバイルの切り口、今後どういう余地があるのか、自分たちが調べたことを、加藤さんの知らないことも含めたくさんプレゼンしました。とにかく熱く語りました。
するとポールさん、
「で、これからどうするの?」
「やろうと思っています」
「必要だったらお金を出す。そのときは僕も経営陣に入って一緒に汗を流す。だからシンガポールに来い。君たちのビジネスをする上で、ユーザーだけでない、『出稿する企業』も考えろ。クライアントとなる大企業のヘッドクオーターの多くはみんなシンガポールにある」
あまりの展開で…ものすごく驚きました。
それに、僕たちは深田・尾崎の2人でやるつもりでいたので、僕一人では決められない。
尾崎:
その後、ポールさんが日本に来るタイミングで僕も会う時間をいただきました。
おかげ様で彼がどういう人なのか知ることができましたし、シンガポールのよさも知ることができ、深田と2人で話し合った結果「じゃぁ入ってもらおう」という決断をしました。
そして会社をシンガポールで設立したのが、去年の10月10日です。
2人熱い話はまだまだ続きます。
Candyのベータ版リリース、その後の停止劇から正式版リリース、新しい仲間を迎えたYOYOの「今」と「これから」はこちら!
※深田さんのお話に出てきた書籍はこちら。
* ネクスト・マーケット[増補改訂版]――「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略 (ウォートン経営戦略シリーズ)
* ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する
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